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【ローマ人の物語6】ローマ市民ということの意味

いろいろな見方ができて読書が楽しい「勝者の混迷」ですが、グラックス兄弟のなしえなかった失業者問題の解決を軍政改革によって実現し、蛮族ゲルマン人の侵入さえも見事に制した、たたき上げの武将ガイウス・マリウス。軍人としての才は抜群であっても政治家としての器量が追いつかず、自らもそれを知ることで劣等感に悩むマリウスの心の動きが個人的には印象に残りました。一連の出来事では、まちがいなく「ローマ市民」がキーワードになっているようです。

p138 執政官マリウスは、執政官の権利である正規軍団の編成を、従来のような徴兵制ではなく、志願兵システムに変えたのである。これによって、ローマの軍役は、一人前の市民にとっての義務ではなく、職業に変わった。

ローマ市民にとって義務であった血税が職業になった一方で、同盟国の市民にとっては兵役は義務のままでした。このことが後に起きる「ローマ連合」の発展的解消のトリガーになるとは、この時点ではだれも気づいていなかったようです。

p166 法律とは、厳正に施行しようとすればするほど人間性との間に摩擦を起こしやすいものだが、それを防ぐ潤滑油の役割を果たすのが、いわゆる義理人情ではないかと考える。法の概念を打ち立てたローマ人だからこそ、潤滑油の重要性も理解できたのではないだろうか。

志願制すなわち契約制の軍隊において、職業軍人は戦争がなければ職を失うことになります。兵士たちへの失業保障に対してマリウスの感じていた責務は、法的義務ではなく人情によるものだったといいます。もともとローマ市民でもなく出生の低かったマリウスが、自分に従いてきてくれた兵士たちこそクリエンテスだと考えたのも当然でしょう。従来からローマ人の人間関系に強い影響力を与えてきたといわれ、同盟国のためだったら血も流すという義理人情的精神、いわゆる「パトローネス-クリエンテス関係」こそ潤滑油でした。
しかし、これをどのように政策化するか、政治的に立ち回るかについてマリウスには才がありませんでした。このあたりのマリウスの心の葛藤が、やがて起きる同盟国の離反と重なってきて切ない思いがしました。
この戦争は「同盟者戦役」と呼ばれ、その後ユリウス法によって和解した同盟国の市民は全員が「ローマ市民」となります。
以上 文庫版「勝者の混迷(上)」より。

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