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【ローマ人の物語9】ガリア戦役

ポンペイウスの軍事力、クラッススの経済力、カエサルの民衆支持という三位一体による三頭政治は、国家ローマの防衛線の確立という公益のために動き出します。周辺の蛮族ガリア人、さらにはライン川を越えたゲルマン人からの侵攻を防衛するための戦いです。いかなるときも最前戦のモチベーションに配慮し、明快かつ首尾一貫した言動で軍隊を率いたカエサルであったからこそ、当時若者のあいだでは、「ガリア戦役」へ参加することが流行にもなったのでしょう。劣勢に立ち戦意を失いかけた軍隊への起死回生の演説、兵糧の確保と補給路をまず第一に考えた戦い方、キケロの弟を隊長に任命した絶妙な人選、傭兵がローマ軍のために戦死したときの同盟部族への思慮...etc、カエサルの行動からは、リーダーたるものの立ち振る舞い方について、多くのヒントを見つけることができます。

p74 「ガリアは、そのすべてをふくめて、三つに分かれる。第一は、ベルガエ人の住む地方、第二は、アクィターニア人の住む地方、第三は、彼らの呼び方ならばケルト、われわれの呼び名ならば、ガリア人が住む地方である」

簡潔、明晰、洗練されたエレガンス・・・と形容され、その文才を絶賛されるカエサルの「ガリア戦記」の書き出しだそうです。ガリア戦役が、カエサルの冷静かつ俯瞰的な状況分析にもとづいて起こされたものだったことが分かります。

p152 戦いを起こすこと自体は、カエサルにしてみれば罪ではなかった。しかし、いったん交わした誓約を破り攻めてきたことは、明らかに罪に値したのである。人間であることを放棄した者には、彼にしてみれば、奴隷がふさわしい運命だった。

多神教のローマ人にとって、絶対重視されたのが人間同士の誓約でした。ガリア戦役において、一旦降伏して講和したはずのガリア人の部族が、約束を反故にしてローマ人を襲ったとき、カエサルは情け容赦ない徹底的な報復を行いました。但し、カエサルの時代にあっても、戦争に敗れた相手を抹殺したり奴隷化するのではなく、人質をとったうえで講和を結び、同化させるという伝統的なローマのやり方は踏襲されていました。しかも人質は惨めな境遇であるどころか、有力者の家へのホームステイによって教育を受け、ローマ・シンパになって帰国させられるのでした。いわゆる"フルブライト留学制"です。

p192 文化は、各人のものであり、それをどう考えるかは各人の自由である。しかし、文明は、人種も肌の色も風俗習慣も異なる人間同士が共生するに必要なルールは、各人勝手で自由として済ませるわけにはいかない。ゆえに、平易に言えば、生きるマナーに過ぎないことなのに、文明という仰々しい文字を冠せられることになるのである。

ローマ人の生き方を象徴している部分だと感じます。ローマ人がギリシア人の知性やエルトリア人の技術を取り入れたように、異民族の文化を尊重し、自分たちより優れたものを積極的に導入することは自由である。しかしその一方で、価値観の異なる民族が共生するために必要なルール、すなわち生きるマナーについては、人間同士で取り交わした約束が絶対であり、法こそ人間の基本的な行動原則であるとしたローマ文明のことを指しているようです。カエサルのもつ一貫性の原点ともいえるでしょう。
以上 文庫版「ユリウス・カエサル ルビコン以前(中)」より。

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