宮部みゆき

ブレイブ・ストーリー

宮部みゆき原作のブレイブ・ストーリーは勇気と正義の物語。
ある日、小学5年のワタルが直面したのは、両親の離婚というショッキングな現実。そんな運命を変えるために扉の向こう側に旅にでたワタル少年が、最後に選んだ「願い」とは何か。

確固たる目的をもって旅に出たはずなのに、幻界(ヴィジョン)で遭遇する出来事のたびに「本当にそれでいいのか?」と自問自答し、迷い、悩むワタル少年の姿こそ、人間本来の姿ではないでしょうか。自分の目的を果たすために手段さえも選ばないミツルとは対照的です。しかし、ワタル以上に悲しく残酷な現実を突きつけられていたミツル少年の境遇を思えば、それを否定するのは可哀想だと思ってしまう。。。
現実を受けとめ、運命を受け容れる勇気が、自分を含めた今の大人にはあるだろうか。すぐに言い訳をしたり、自己中心に考えたり、逃げたりしていないだろうか。

主題歌「決意の朝に」もよかった。
ぜひとも原作も読んでみたいと思いました。


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模倣犯

ストーリーを絵に描いたような、おどろおどろしい闇夜。
孤独感や不安感を煽るのは、おなじみの藤田新策さんの装丁。

厚手の文庫本ながら、通勤電車で、朝いいところで中断しても、
帰りの電車では、違和感なくすぐ読み始められる、そんな手軽さが不思議です。

たぶん、最後にはいつものように救われるのだろうな、
という期待感を持ちながら、2冊目まで読破。
ここまでは狡猾で残虐な犯人の独壇場でした。

いかにも、救われるエンディングの伏線になりそうな
おせっかいで世話焼きの登場人物たち。
苦しんだり困ったりしている人を放っておけない
宮部さんの人間観が根底にあるのでしょう。

しかし、、、
人間の良心が、尊厳が、そして命が、
ここまで踏みにじられてしまったら、どんな結末が待っているというのか。
因果応報という結末では、リカバリーしきれない暗さと重さがあります。
先が気になります。

模倣犯1
模倣犯1宮部 みゆき

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宮部みゆき:蒲生邸事件

受験のために上京した主人公の孝史は、宿泊先のホテル火災に遭いますが、謎の男に奇跡的に救出されます。しかし気がつけばそこは昭和11年。雪の降り積もる東京は、2・26事件の当日だったのでした。

孝史がタイムスリップした先の蒲生邸内では、主人である元陸軍大将の蒲生憲之が自決するという事件が起こります。歴史上は自決とされている大将蒲生憲之の死には多くの謎が。。。
真相は?もしも殺人事件だったのなら誰が犯人なのか?これだけでもミステリーになりそうですが、ここからが宮部みゆきの小説の真骨頂で、さらに複数のストーリーが錯綜していきます。

ひとつには、時間旅行者の男が選んだタイムスリップ先はなぜこの日なのか?2・26事件阻止したいと考えたからなのか?あるいは別の目的があったのか?という謎解きストーリーです。面白いのは、別々の価値観をもった2人の時間旅行者を登場させることで「人は歴史を変えられるのか?」というテーマを突き詰めていることです。この結論そのものが、実はもうひとつのストーリである孝史が恋心を抱く女中ふき(文庫本表紙の女性のイメージ)との恋のゆくえにもつながります。さらには、受験に失敗した孝史少年の成長物語という見方もできます。

登場人物や事件の経緯はフィクションでありながら、昭和暗黒期へと傾倒していく分岐点となる相沢事件や2・26事件など、第二次大戦前夜の不安、焦燥感が見事に描かれていると思います。その一方で、他の作品同様、宮部さん特有の人間同士の温かいつながりや、人でなければできない仕事の尊さ、苦労しながらも前向きに生きる人々の姿といったものが感じられます。Amazonの書評でどなたかがコメントされていますが、昭和という激動の時代を生抜いてきた人たちに敬意を示したくなります。

文庫本で678ページにも及ぶSF大作は読み応え十分です。個人的には★★★★、間違いなく宮部作品ベスト3に入ります。

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本所深川ふしぎ草紙

宮部みゆきの時代小説は面白い!
まず、江戸時代から実際に語り継がれてきたという「本所七不思議」をモチーフにしているところが粋ですね。
江戸の町で起こる事件が、下町の人たちの人情、人生の哀歓と絡めながら、ミステリータッチで描かれています。
各話とも、最後の茂七親分の「締め」が効いており、とてもテンポがいいです。登場人物一人一人についてのきめ細かな描写もさすがです。七不思議をここまでドラマチックに、人生の機微を織り交ぜながら膨らませられるのは宮部さんしかいないしょう。
現代社会であれ江戸時代であれ、平凡ながらも一生懸命に誠実に生きる人たちに対するエールは、他の宮部作品と変わりません。いずれも秀作ぞろいですが、個人的には「落葉なしの椎」の話が印象に残りました。
第1話「片葉の芦」
第2話「送り提灯」
第3話「置いてけ堀」
第4話「落葉なしの椎」
第5話「馬鹿囃子」
第6話「足洗い屋敷」
第7話「消えずの行灯」

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かまいたち

宮部みゆきの時代小説に初挑戦。時代ミステリーが4作収録されている本作は、予想に反して(?)読みやすい!という感想。
これまで食わず嫌いの領域でしたが、江戸の町を走り回っているようなテンポのよさで一気に読めてしまいました。人の悪意、欲、虚栄などを描きながら、あっけらかんとしていて陰湿さがないのは、いかにも江戸時代のようです。謎解きを愉しむというより、登場人物の心情を追いけているうちに、終わってしまった感じです。時代小説も意外にいいかも・・・なんて思っています。
表題作の「かまいたち」がいいですねえ。町医者の娘おようが生き生きとしています。最後は、大岡越前の一件落着!が聞こえそうなまとめ方でした。
1作目「かまいたち」
2作目「師走の客」
3作目「迷い鳩」
4作目「騒ぐ刀」

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スナーク狩り

スナーク狩りを読んだとき、こんな図が思い浮かびました。それぞれ異なる境遇、それもどちらかといえば人間関係に疲れ、悲しさや寂しさを背負った人たちが、金沢の病院というだだ一地点に向けて収斂していくのです。関越道から北陸道へと、東京から金沢へ夜の闇を疾走するクルマのスピード感とともに、一気に読んでしまいました。物語としてはたった一夜の出来事なんですよね。にもかかわらず、こんなにも沢山の人たちを登場させながら、全員が印象に残ってしまうのは凄いことです。巻末の解説にもありましたが、一つ一つの場面が、絶妙な言葉をつかって鮮明に描かれている、きわめて映像的な小説だと思いました。
固い信念のもと、織口が貫いた"私刑執行"の形は、意外なものであり感動的なものでした。金沢で迎えたクライマックスの後、織田の計画に引き寄せられた人々の人生が変わりはじめたというエピローグには、希望にも通じる温かな余韻を感じさせられました。
宮部さんの小説の中でも、かなり好きな作品に挙げたいと思います。
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パーフェクト・ブルー

宮部みゆきの長編デビュー作を読んでいます。元警察犬の「マサ」が、「俺は・・・」と一人称で語る書き口が面白いです。
宮部さんは、きっと野球好きなのでしょう。先日読んだ「とり残されて」でも、孤独なピッチャーの姿を描いた短編がありました。
このパーフェクト・ブルーは、高校野球のエースピッチャーがガソリンをかけられて焼死するというショッキングな事件から始まります。死んだ兄の弟が、小さな探偵事務所(マサ含む)と一緒になって真相を探っていく物語です。企業の陰謀や高校野球界のスキャンダルなど、場面設定は陰惨でスキャンダラスでありながら、爽快感やハートウォーミングな感じを与えるのは、根底にあるのが家族愛や兄弟の絆だからなのでしょう。本作の進也君のように、快活で純粋な少年が登場するのも宮部作品の特徴ですね。
ところで、日本プロ野球組織が、公式戦中に選手のドーピング(禁止薬物使用)検査を導入するというニュースがでていました。あまりにも偶然で、ちょっとドキッとしました。

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とり残されて

宮部みゆきの短編集を読了。「返事はいらない」「人質カノン」「淋しい狩人」のあとの4作目になりますが、それらの作風とは異なり、超常現象を扱った不思議感覚のミステリーでした。短編集は電車のなかで一話ずつ簡単に読めてしまうのがいいですね。

7篇の中では「たった一人」がよかったです。ありえない話だと言ってしまえばそれまでですが、ヒロインの梨恵子が、夢の中でみる場所を探してほしいと探偵に調査依頼し、20年を遡って徐々に明かされていく謎解きの妙に引き込まれてしまいます。
何が本当のことなのか、結局謎につつまれたまま物語は終わってしまうのですが、ひよっとしたら、起こったことすべてが梨恵子の夢の中での出来事であり、妄想に過ぎなかったのかもしれないという疑念が残りました。そんな読後の解釈も楽しい作品です。

1作目「とり残されて」
2作目「おたすけぶち」
3作目「私の死んだ後に」
4作目「居合わせた男」
5作目「囁く」
6作目「いつも二人で」
7作目「たった一人」

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淋しい狩人

事件はいつも本から始まる。まずこのアイデアと構成がすばらしいですね。
東京下町にある古本屋の雇われ店主であるイワさんと、"不出来な"孫の稔(みのる)少年が、本をきっかけに起こる謎を解いていくという素人探偵物的な趣向のミステリー6篇です。いずれも、イワさんと稔の軽妙なやりとりが面白かったです。

個人的には表題作の「淋しい狩人」が一番よかったです。クライマックスとともに、周囲をヤキモキさせた稔と年上女性との恋愛事件が、きわめて現実的な結末に落ち着くのは、一連の宮部作品に通じるリアリズムのようです。「歪んだ鏡」では、古本に挟まれていた名刺の意味に思いをめぐらせ、勇気をしぼって行動を起こすことで由起子が知りえた真相も、冷徹すぎるほど現実的です。必ずしもハッピーエンドでないながら、ハートウォーミングな読後感を味わえる作品でした。

1作目「六月は名ばかりの月」
2作目「黙って逝った」
3作目「詫びない年月」
4作目「うそつき喇叭」
5作目「歪んだ鏡」
6作目「淋しい狩人」

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魔術はささやく

主人公の高校生、日下守が背負った3つの境遇が巧みに絡み合いながら進行します。1つめは「3人の女性の死」を追究すること、2つめは「犯罪者の息子」という烙印に打ち克つこと、3つめは「父親」を探すことです。
相変わらず、どきっとする人間心理の本質を突いた描写がでてきます。

P54 ただ、貪欲なのだ。守は思う。自分には足りないものはないが、同じように足りないものがない人間はほかにもたくさんいる。自分も十持っていて、隣の人間も十持っている状態で、その隣にいる人間に対して優越感を感じたいと思ったら、相手から何かを取り上げてしまうしか方法がない。そうしないと満足できない。
三浦のような人間-今は大多数がそうなのだ-が満足感と幸福感を得ようと思ったら、もう足し算では駄目なのだ。引き算しながら生きていくしかない。
裕福でスポーツマンで優秀な同級生三浦が、2つめの境遇を理由に、陰険で執拗な「いじめ」を繰り返すことへの分析です。
「火車」や「理由」と同じく、社会派ミステリーと呼ばれるジャンルに分類される作品だと思います。なぜ「魔術」なのか?が最後に解き明かされます。

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