憑神

「憑神」は、徳川家に仕えた御徒士(おかち)の物語です。
主人公は、ひょんなことから貧乏神、厄病神、そして死神にとり憑かれた別所彦四郎。

やけに人情味のある神々と彦四郎とのやりとりが面白いのですが、葛藤しながらも武士道を貫く彦四郎の生きざまこそ、旨みの部分だったと思います。

徳川将軍の影武者として仕えた父祖が、褒美として貰い受けたといわれる名刀。しかし、先祖代々受け継がれてきたその名刀は、目利きによる非情な一言によって贋作だったことが知れるのでした。「どういう言い伝えがあろうと、言葉に形はない」と。

以下はそのときの彦四郎と喜仙堂の亭主とのやりとりです。お互いのプライドを尊重し合う、なんと美しい言葉の応酬とリズムなのでしょう。

(以下引用)
・・・
「おっしゃる通り、言葉に形はござらぬ。
伝承の真偽を証すものは、形あるこの刀でござる。
しかし、形なき言葉には、信ずる者の心がこもっており申す。
よしんば刀が贋物にせよ、伝承が嘘にせよ、
そうと信じて勧め力めた祖宗の心にまさる真実はござりますまい。
その努力精進さえも過ちと断ずる勇気を、拙者は持ちませぬ。
たとえ天下の目利きがこぞって贋物と鑑じましても、
別所の家に生まれ育った侍にとって、
この御刀は正真正銘の御紋康継にござりまする。
どうか、ご亭主もそうと信じてお研ぎ下されよ」


「練達の士たるおまえ様には、ふさわしからぬとも思うがの。
あえてそれでもよいと申されるなら、喜仙堂の研ぎをご覧にいれよう」
・・・

「憑神」(浅田次郎/新潮文庫)P236より

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憑神 (新潮文庫)浅田 次郎

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star生きることは素晴らしい
star勧善懲悪に人情を散りばめて、さあ泣いてください(笑
star【貧乏神、厄病神・・・に憑かれた武士の運命は?】

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銀色の雨

梅雨を思わせるような天気が続いています。
浅田次郎の「月のしずく」という短篇集に、「銀色の雨」という作品があったのを思い出しました。ヤクザに匿われた殺し屋、その世話役の学生、キャバレー勤めの恋人という奇妙な三角関係が描かれています。
降りしきる雨の描写から、彼らの心の動きが伝わってくるようです。

道頓堀のネオンが滲んでいる。和也は窓辺に身を乗り出して、降りしきる雨を見ていた。雨粒は銀色の縫い針のように輝きながら、寝静まった街路に吸い込まれて行く。

ネオンに照らし上げられた夜空を、銀色の雨が縫っていた。まるで映画のスクリーンに歩みこむように、岩井は外廊下に出た。

そして、「じきに夏が来るぜよ」という殺し屋の最後の言葉。
映画を観ているような気分になる「銀色の雨」には、松山千春が歌う「銀の雨」の雰囲気がよく似合うと思いました。
月のしずく

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地下鉄に乗って

地下鉄に乗ってタイムスリップする主人公。
過去に溯りながら、徐々に明らかになっていく父の意外な過去。
地下鉄の階段を上った出口に広がる世界は、飢えと貧困にある戦後の闇市であり、アールヌーボーに象徴される平和な銀座の街並みでした。そんな昭和という時代を、体をはって必死に生きていたアムールやお時が、まさか自分の人生に関わっていようとは。。。
「ねえ旦那、その尋ね人って、恨みのある人ですかい、恩のある人ですかい」
父を探していて、アムールが何気なく聞いてきたこの問いには、実は深い洞察があったのですね。

時間旅行によって、過去のからくりのすべてを知った主人公が、たった一人、現実に引き戻されるシーンには胸を締めつけられるような思いがしました。過去のうえに現在がある、親のおかげで自分がいるという事実にホロリとさせられ、しっかり生きなくてはという余韻がジワりと効いてくるのは、同じく昭和時代へのタイムスリップを描いた宮部みゆきの蒲生邸事件にも通じるものがあるような気がします。
評判どおりの、思わず涙がこぼれ落ちる感動の浅田ワールド、だと思います。

追記.
この作品も映画化されるようですね。
主演は堤真一、大沢たかお、2006年11月公開予定とか。

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天国までの百マイル

人間はここまで優しくなれるものだろうか。
涙。。。

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3月3日はひな祭り

「ひな祭り」で印象に残った小説といえば。。。
まずは重松清さんの短編集「ビタミンF」。
学校でいじめに遭っている転校生「セッちゃん」の話をする娘。
実は、それは娘自身のことだと知った父親は、あらゆる不幸の身代わりになってくれるという「流し雛」をお店でみつけます。
お雛様とお内裏様が寄り添いながら、川に流されていくシーンにはホロリとさせられます。

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もう一つは浅田次郎さんの短編集「薔薇盗人」に収められている「ひなまつり」です。
小学生の弥生には父がおらず、ホステスをしている母と一緒に暮らしています。
お雛様は2月の風に当てないといけない。
3月3日のうちに片付けなければいけない。
家で留守番をしながら、そんな言い伝えを守ろうとする健気な少女。東京オリンピック前夜の活気のある街とは対照的な少女の心細さ、孤独な気持ちが切ない物語です。

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シエ

顔はキリンで角はシカ、足がウシで尾はトラ、体全体が鱗で被われているという伝説の動物です。浅田次郎の傑作短篇集「姫椿」にでてきます。
先日コメントくださった紅和歌姫さんのおすすめということで、早速読んでみました。この作品が好きだという人は間違いなく「優しい人」だと、そう思いました。
個人的には、その次の「姫椿」も気に入りました。ただし、主人公の椿湯での出来事が幻想でないことを期待します。
1作目「シエ」
2作目「姫椿」
3作目「再会」
4作目「マダムの咽仏」
5作目「トラブル・メーカー」
6作目「オリンポスの聖女」
7作目「零下の災厄」
8作目「永遠の緑」

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あなたに起こる やさしい奇蹟

昔、新宿の辺りを角筈(つのはず)と呼んでいたらしい。
この本には「鉄道員(ぽっぽや)」をはじめ、浅田次郎の短篇8作品が収録されています。表題は初版に用意されたというキャッチコピーだそうです。
鉄道員はもちろん大好きですが、それ以上に「角筈にて」が好きです。少年の頃の回想シーンに泣かされます。いずれも「ホロッとくる」感覚がたまらない名作です。
1作目「鉄道員」
2作目「ラブ・レター」
3作目「悪魔」
4作目「角筈にて」
5作目「伽羅」
6作目「うらぼんえ」
7作目「ろくでなしのサンタ」
8作目「オリヲン座からの招待状」

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シェエラザード(下)

浅田次郎の「シェエラザード」上下巻を読了。これぞ浅田文学の真骨頂、泣きこそしませんでしたが、心の中に大きな感情のうねりが起こりました。
旅客船「弥勒丸(みろくまる)」の真の目的が明かされたとき、当時はそうすることしかできなかったとはいえ、良心をもった軍人たちの苦渋、その結果、不条理と矛盾のすべてを抱えて沈んでいった弥勒丸(彼女)の運命に心が痛みます。半世紀もの時を経てもなお、当時関わった人間として責務を果たそうとする日本人の思いに胸が熱くなります。
最後に正体が明かされる台湾人・宋英明が、軽部や久光に諭すように語った「人生に起こることの、ほとんどすべては必然。すべては人間の意志によるのだ。」という一言は、戦争によって運命を翻弄され、苦い人生を必死で生き抜いた人間の凄みを感じました。
余談ですが、読後どうしてもリムスキー・コルサコフのシェエラザードを聞きたくなり、CDを買ってしまいました。この悲しげな調べを聴きながら読むには、かなり勇気がいる本だと思われました。

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シェエラザード(上)

本書のタイトル、「シェエラザード」がニコライ・リムスキー・コルサコフの交響組曲名であることは、これまで知りませんでしたし、聞いたこともありませんでした。
本来、多くの人の夢をのせ、サンフランシスコ航路へ就航するはずだった世界最高の旅客船「弥勒丸(みろくまる)」。その豪華キャビンで奏でられる音色は、文字を追って想像するだけでも儚く切ないものです。特に、密航を企てたロシア人少女ターニャの存在とともに、ひときわ悲しさが募ります。
船員たちが「彼女」と呼ぶ弥勒丸は、戦時中の海の男たちにとって、かけがいのない恋人なのでした。そんな船が、国際赤十字から託された人道的任務をまっとうするために、決戦のまっただ中にある危険きわまりない海域を航海するのです。極秘任務の真の目的を知らされることなく、運命に翻弄される弥勒丸は、昭和20年の嵐の台湾沖、2300人の命と膨大な量の金塊を積んだまま、アメリカ軍の潜水艦の攻撃によって沈没させられます。
弥勒丸の正体は?、そして弥勒丸の引き揚げに一生を架けた謎の台湾人・宋英明のねらいは何だったのか?、ぐいぐい引き寄せられながら下巻に続きます。

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